KEC コラム『目からウロコの英会話コーチング』
2013-14年に『USウィークリービズ』 紙上に掲載されていたコラム『目からウロコの英会話コーチング』をまとめました。
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タイトル一覧
第1回 学習者の“気づき”を紹介
第2回 まずは経験や学習歴を振り返ろう
第3回 問題の掘り下げより解決策を
第4回 自分の会話を録音して聞いてみよう
第5回 相手のパフォーマンスもきちんと評価
第6回 録音した会話の文字起こしでわかること
第7回 「もう一度チャンスがあったら?」と考える
第8回 相手の協力を上手に引き出すのも、大切なスキル
第9回 会話を理解するためにも文法は重要
第10回 相づちにも文化の違い
第11回 相づちの世界は奥が深い
第12回 「言語コーチング」のセッション
第1回 学習者の“気づき”を紹介
はじめまして。学習者の可能性を引き出し、自走をうながす英語・英会話コーチングを提供しております「カミヤ・イングリッシュ・コーチング(KEC)」の神谷えみと申します。「英会話がなかなか上達しない」「将来に向け、もう一度英語をやり直したい」という学習者のために、お一人お一人の目的やゴールに合った学習方法をご提案しております。学習者自身がすでに身につけている能力を認め、さらなる可能性を引き出し、最終的には自分で自分の力を高めていける、自立した学習者の育成を目指しております。
このコラムでは、私のいままでのコーチングの経験を元に、英会話教室のイメージからは想像しにくい、学習者の“気づき”をご紹介してまいります。その“気づき”を垣間見ることにより、読者の皆さまに「なるほど」と思っていただいたり、「自分だったらどうだろう」と考えていただくきっかけになったりしたらいいなと思っております。よろしくお願いいたします。
第2回 まずは経験や学習歴を振り返ろう
英語を「やり直したい」「やらなくちゃ」と意欲はあっても、多くの場合、具体的に何をしたらよいかわからないものです。例えば、「日常的に英語を使っていて、何とかなっているし、特に困っているわけじゃないけど、このままではいけないような気がする」というような、ぼんやりした感じです。
まずは英語に対するこれまでの経験や学習歴を振り返ってみましょう。「自分はいつ英語を始めたんだろう」「どういうことをやってきたんだっけ」「今どこまでできているのかな」「どうして英語を勉強しようと思っているんだろう」などと考えてみると、英語を学習する目的や動機が明確になってきます。
次に先ほどの“ぼんやりした感じ”を掘り下げていきます。「日常的に使っている英語」とは実際、どういう英語でしょう? 「何とかなっている」と思った根拠は何? 困っていないのに「このままではいけない」と思うのはなぜ? どうなったら「自分は英語ができている」と実感するようになる? それは本当に英語の問題? コミュニケーションの問題? 情報や話題を増やすこと?
さらに「誰とどんな会話がしたいのか」を考えます。これが学習の最終的なゴールとなります。
第3回 問題の掘り下げより解決策を
問題点を探し、原因を分析し、謙虚に反省することは日本人の美徳とも言われます。しかし、コーチングでは問題を掘り下げることはしません。これは私たちの脳の働きと関係しています。
私たちの脳は良いことよりも悪いことに強く反応し、悪いことをよく記憶します。また、弱点を取り除こうと望めば望むほど、その弱点は強く認識され、取り除きにくくなります。さらに、暗い気持ちは学習を妨げます。もしあなたが「英語ができない」と思い、「発音が悪い」「文法がめちゃくちゃ」「ボキャブラリーが乏しい」と分析し、「ダメだ」と凹んでいるならば、それは自ら英語ができない道へと導いていることになります。
問題を認識するのは大切です。でも、その認識は悪い方へ偏りがちです。例えば「”th”の発音が苦手」という人は、うまくいった経験は覚えておらず、失敗ばかりを覚えているものです。”th”の発音の練習を重ね、かえって苦手意識が強化されてしまうと、会話の中でいざ使おうとしたときに緊張してうまくいかないかもしれません。
コーチングでは問題に対し、解決策を考えます。解決策は学習者の個性、問題の種類や場面によって異なりますから、それらに応じてもっとも有効なものを選びます。
第4回 自分の会話を録音して聞いてみよう
皆さんはご自分の英会話を録音して聞いたことがありますか? 「そんなの恥ずかしいからイヤだ」とおっしゃる方もいれば、「自主トレとしてやってみた」とおっしゃる方もいるでしょう。ではその録音を誰かと一緒に聞いたことはありますか?
自分の会話を録音して聞くことは、学習のためにとても有効です。録音をしたら、その直後に会話の感想や印象を書き留めておきましょう。それから会話を聞きます。会話している時には気づかなかった発見があれば、それをメモします。録音を聞く前と後で書いたことを見比べ、違いを見つけます。できれば英語が得意な人に頼んで、録音した会話を一緒に聞いてみましょう。他の人が聞くとどう聞こえるか、その聞こえ方に目からウロコが落ちるかもしれません。
ボイスレコーダーなど録音の機器やアプリがあれば誰でもできますからぜひお試しください。
私はコーチとして受講生の会話を聞きますが、本人の感想が反省ばかりで、どんなにひどいのかと思って聞いてみると、実はちゃんとできている、ということがよくあります。ダメ出しが多いのは日本人気質なのかもしれませんが、できているところに目を向けていくと、徐々に自信がついてきます。
第5回 相手のパフォーマンスもきちんと評価
自分の英会話を聞くときのポイントは、「自分と相手のパフォーマンスを公平に評価する」ということです。
最初はつい自分が発言した部分だけを聞いてしまい、「発音が悪い」「言いたいことが言えてない」「全然ダメ」と辛口の評価をしたくなります。でも、視点を変えて、会話の相手にどう伝わったかに着目してみると、結構ちゃんと伝わっていたりしませんか? また、会話相手のパフォーマンスもきちんと評価してください。たとえばネイティブでも、実際の会話では言いよどんだり、言い直したりを普通にしています。それらのすべてをいちいち修正して、完璧にする必要なんてありませんよね。逆に、相手のパフォーマンスに良いところがあったらどんどん盗みます。
聞き方を知れば、録音した会話を聞くことでどんなに多くの情報を得られるかがわかります。英語学習という意味では、これまでどんな学習をしてきて、どこができていて、どこが足りなくて、どうすると改善できそうか、というようなことが会話に現れているものです。コミュニケーションに関する自分の癖や思い込み、パターンなども見えてきます。私はこれを『英会話の人間ドック』と呼んでいます。
第6回 録音した会話の文字起こしでわかること
「トランスクリプト(transcript)」という言葉をご存知でしょうか。録音した会話を文字にしたもののことです。自分の会話のトランスクリプトを作ることは、英語学習のためにとても有効です。
文字起こしをやってみると、会話中は何となくわかっていたつもりだったのに、実はよくわかっていなかった、というようなことが起こります。文字にしたことで同音異義語による勘違いに気づき、それをきっかけに話の内容が一挙にわかった、なんてこともあるのです。
文字起こしでは、自分の発言も「こう言ったつもり」ではなく、実際に聞こえるままに文字にします。何度聞いても聞き取れないところは、英語が得意な人など、ほかの人の耳を借りましょう。コーチングでは聞き取れない部分の単語数をカッコでお知らせしたり、最初の1文字を教えるなどヒントを与え、穴埋め形式で聞き取り能力が1段階アップするよう指導しています。“言われてみれば納得”、いったん聞こえるようになると「なぜ今まで聞こえなかったのだろう」と不思議になるほどです。
文字起こし中に聞き取れない理由は、おそらく以下のどれかです。
(1)雑音など、録音状態の問題(2)不明瞭な発音、早口など、相手の問題(3)発音の仕方に勘違いがある(4)意味のわからない単語が使われている(5)文法が理解できていない(6)前後の文脈を見失っている
(1)と(2)の場合、あなたの英語力とは関係がありません。(3)~(6)は、英語学習のうち、それぞれ別の分野のスキルの問題です。このように、「なぜ聞き取れなかったか」を明確にしてから「ではどうするか」と対策を考えると、学習を効率よく進めることができます。
第7回 「もう一度チャンスがあったら?」と考える
自分の英会話を聞き直し、トランスクリプト(録音した会話を文字にしたもの)を見返すと、「あぁ、ここがまずかったんだ」と気づくかもしれません。そんな時は、「もう一度チャンスがあったら?」と考えてみましょう。
現実には同じ相手と同じ場面で同じ会話をすることは二度とありません。しかし近い将来、あなたが今回と同じような会話をする可能性は非常に高いのです。たとえば、自分の経験や趣味、仕事内容は新しい人と出会うたびに話題にのぼります。また、あなたの相づちや間の取り方の癖、確認の仕方などの特徴は、相手や場面に関わらず、会話する上で繰り返し現れるものです。
今回の会話をもう一度やり直すと仮定し、その場面に戻って“テイク2”を撮るつもりで、「今度はどう言おう?」と考えましょう。英語に関することであれば、必要に応じて単語や発音、文法などの確認をします。コミュニケーションについてであれば、ひと呼吸置く、相づちを増やす・減らす、クッションになる一言を挿入する、などがあります。たとえば、部下と英語で話す立場にある方の場合は、賛同する 、褒める、 確認する、など、頻出表現をリストにまとめ、口をついて出てくるまで練習しておくとよいでしょう。
コーチングでは、英語とコミュニケーションの両面から、学習者本人に“台本”を修正していただく機会を設けます。修正したセリフを使ってコーチとロールプレイ(役割演技)を行い、同じ内容の会話をよりスムーズに、自信を持って運べるようにします。このような準備は、心の余裕につながります。だからこそ、実際の会話の中で“テイク2”のチャンスに遭遇したとき、「来た!」とばかりにとっさに反応することができるのです。過去にできなかったことができるようになったという経験は記憶に残りやすく、その後もしっかりと定着するため、高い学習効果が期待できます。受講生の方から「言えました!」とご報告いただくと、こちらもうれしくなります。
第8回 相手の協力を上手に引き出すのも、大切なスキル
わからなかった! そんな時、どうしますか?
英語での会話中にわからないことがあった時、「わかったふりをする」「笑ってごまかす」というのをよく聞きます。この特徴は日本人の英会話のデータにもはっきり現れています。もちろんそれが有効な場面もありますが、安易な聞き流しは後々問題につながることもありますし、相手との信頼関係にも影響します。理解していると思って会話を進めていたのに、後になって全然わかっていなかったことが発覚し、せっかくの会話が気まずい雰囲気に…ということにもなりかねません。
重要なのは、理解できなかった、その直後の反応です。ためらわず、「わからない」というシグナルを出すことで、その後の展開は大きく変わります。シグナルにはちょっとした目の動きや表情の変化なども含まれます。いわゆる頭の上にハテナが浮かんだ状態を作るだけで、シグナルとして十分な機能を果たすのです。
相手にもう一度言ってもらうよう頼む場合は、要点をなるべく絞り込み、相手の負担を軽減するよう心がけましょう。英語での会話に慣れないうちはどうしても「What?」や「Pardon me? 」などの表現に頼りがちですが、実はこのような表現で聞き返すと、相手はどこを言い直せばよいか特定できません。最初から全部を繰り返されては効率が悪い上に、肝心なところはまた聞き取れないかもしれません。
絞り込みには、聞き取れた部分を相手に伝えることが有効です。これによって、相手は一から言い直す必要がなくなり、こちらもすでにわかっている部分を省いて必要な情報だけピンポイントで補うことができますから、お互いにとって効率が良くなります。たとえば「I got bronchitis」と言われて、「?」となったとします。聞き取れた部分を使って、「You got what? 」と返すと、「最後の語だけもう一度言ってほしい」と伝えられます。相手の言葉をなぞって「Bronchitis?」、あるいは「Bron…? 」と一部だけでも拾って渡すと、「聞こえたけど、意味がわからないから説明してほしい」と伝えることができます。
コミュニケーションは共同作業。相手の協力を上手に引き出すのも、大切なスキルです。
第9回 会話を理解するためにも文法は重要
文法は“読み書きのため”と思っていませんか? 文法学習には本を使ったり、例文を板書して分解したりする方法が一般的なので、そんなイメージがついているかもしれません。しかし実は、相手の言っていることを聞き取ったり、自分の言いたいことを伝えたりする時にも、文法は重要な役目を果たしています。
このコラムの第6回で挙げた聞き取れない理由の一つに、「文法が理解できていない」がありました。コーチングの中で、受講生の文法力がはっきりと現れるのは文字起こしです。たとえば、「Does he have any kids?」 と聞かれているのに、「Does he how many kids?」と書き起こしていれば、この受講生は基本的な動詞について復習する必要があるとわかります。自分でそれに気づき、復習をし、理解できれば「Does he have any kids?」がそのまま聞こえるようになり、聞こえれば、当然それに対する返事も変わってきます。
一方、文字起こしをしたときに、前置詞(on, in, at, with など)や、冠詞(a, the など)、単数・複数の使い分けなどの細かいところまで聞き取れている受講生は、相手の発話をきちんと理解しており、受け答えが的外れになることはありません。受講生の発話に対して相手もよく理解しています。文法という言語の骨組みが正しければ、たとえその中に誤解が生じても、お互いに問題を特定しやすいため、相手と協力して修正や補足を加え、早く本来の意味する内容に辿り着くことができます。
「ネイティブは文法なんて気にしない」という声を時々耳にします。しかし、それはかなり語弊があります。私たちにとっての日本語を考えてみても、母語話者というのは文法を気にしながら話すことはあまりありませんし、特別に勉強しない限り、自分の使っている言語を文法的に説明することはできないでしょう。それでもほとんどの場合、母語話者は文法という社会的なルールに自然に則っています。ルールを共有しているからこそ、通常の言語コミュニケーションはスムーズに効率よく行われ、時にはわざとルールを外してジョークを生んだりできるわけです。
文法学習といっても、いきなり分厚い文法書を最初から全部やる必要はありません。自分にとって、どの文法項目が、どんな場面で、なぜ必要か納得してから学習に臨むのが効果的です。
第10回 相づちにも文化の違い
会話の中で、何気なく使っている相づち。皆さんは、自分の相づちについて考えたことはありますか。このコラムでは、今回から2回にわたり、相づちのお話をします。まずは「相づちの文化の違いについて」です。
相づちにも文化の違いがあります。当然、日本人は日本的な相づちの打ち方をしますが、それを、英語を話すときにも使っていることがよくあります。いわば、英語の会話に日本語の作法を持ち込んでいるようなものです。
日本人とアメリカ人が会話をすると、多くの場合、日本人の方が頻繁に相づちを打ちます。典型的なのは、日本人が何度も深くうなづきながら「Yeah, yeah」と言うのに対し、アメリカ人は時々軽く頭を動かす程度、という様子です。相づちの文化を比較した研究はたくさんありますが、それによると、日本人は相づちが少ないと無礼だと感じたり、不安になったりする傾向があるようです。
また、日本人は相手の発話が終わらないうちに相づちを打つことを好む傾向があります。「食い気味」とか「かぶせる」とか言われるような、相手と同時にしゃべる会話の仕方に慣れており、それを楽しいとさえ感じます。そのため、多くの日本人は、英語を話すときもこの「かぶせ」を持ち込んで会話をしようとします。同じ英語の会話でも、たとえば、アメリカ人との会話に比べ、韓国人との会話の方が「テンポが良い」と感じたことはありませんか? これは日本人と韓国人の相づちの打ち方が文化的に近いことと関係しています。
対照的に、アメリカ人は一般に一人ずつ順番に話す習慣があり、発話が重なることを特に好意的に捉えてはいません。研究によると、アメリカ人の中には日本人の相づちに対して、気にならないと答える人もいる一方で、「急かされているようだ」「邪魔をされた」「不真面目」と感じる人もいるようです。
おもしろいことに、アメリカでの生活が長い日本人の中には、日本語の会話に英語的な相づちを持ち込んでしまう人もいます。これは日本語としては不自然に相づちが少ないことになりますから、相手から「話しにくい」「聞いてるの?」と思われてしまう可能性があります。
このように、相づちはあなたの印象や会話の満足度に大いに影響します。言語や相手、場面や内容に応じて、相づちの打ち方を柔軟に変えることが大切です。
第11回 相づちの世界は奥が深い
前回に続き、相づちについて考えます。今回は「それぞれの相づちが持つ意味について」です。
「Yeah」や「Uh huh」のような短い言葉にもちゃんと意味があります。ほかの言葉同様、それを使うということは、相手に意味を伝え、意思表示をすることになります。こうした短い相づちの意味や使われ方、効果などについては、コミュニケーション学の会話分析という分野でよく研究されています。通常、母語話者はこれらの相づちについて見解が一致していますが、異文化間のコミュニケーションでは、その意味や意図にズレが生じ、意思疎通の妨げになる場合があります。
たとえば、日本人がよく使う「Mm hm(ンーフ)」という相づち。これは日本語の「ふーん」や「うんうん」の代わりに使われることが多いようです。時にはイントネーションを変えて、「え? 何?」や「なるほどね」の代わりになっていることもあるようです。様々な意味に使える便利な相づちと思われているのかもしれません。
では、それを言われた相手はどう感じているでしょうか。コミュニケーション学で「Mm hm」は「Continuer(続けさせるもの)」と呼ばれ、受身の姿勢を保つシグナルとされています。相手に話を続けさせ、自分は聞き手に徹するという意思表示です。もちろん、会話において聞き手の存在は重要ですし、相手の邪魔をせず場を譲ることも大切です。ある程度の興味を示していることも伝わります。しかし、話し手と聞き手の役割が固定されてしまうと、話し手はだんだん話しにくくなってきます。
私が行った研究では、日本人の「Mm hm」に対して、アメリカ人は比較的早く「そっちはどう?」というように役割の交代を試みる傾向がありました。アジア人は「Mm hm」が続く限り話し手の役割を続ける傾向が見られましたが、それでもやはり自分ばかり話していることに不快感を覚える人もいました。「Mm hm」には賛成・反対などの意見も、好き嫌いや良し悪しなどの評価も含まれていないため、会話は発展しにくいのです。そんな中、「続けて」と言われても困ってしまいますよね。
タイミング、頻度、内容について考えてみると、相づちの世界は奥が深いということがわかります。「自分はどんな相づちを打っているのだろう?」と興味がわいたら、まずは会話を録音して聞いてみましょう。
第12回 「言語コーチング」のセッション
コラム最終回の今回は、「言語コーチング」についてご紹介します。言語教育にコーチングを取り入れた「言語コーチング」には、2013年から国際コーチ連盟の認定資格ができました。資格を持った言語コーチは現在世界各地に45名ほどいますが、私はその中のアジア人第一号です。
Coaching (コーチング)はTeaching (教えること)に対抗するものとして、Teaching への脅威ととらえられることがありますが、決してそうではありません。言語コーチはみな、言語教育の経験者であり、従来型の教育(教師が一方的に知識を伝授する、教科書どおりに授業を進める、など)の有効性や手法を理解していることが義務付けられています。そのうえで、従来型の教育では難しかった事柄を、コーチングの持つ「双方向性」「現在進行型」「個別対応」などの特徴を利用して実現しようとしています。一人ひとりの学習者にピッタリあった学習法を提供し、効率良く学習が進むようにしています。
コーチは学習者とゴールを共有し、二人三脚で進みます。しかし、学習の主役は学習者です。コーチは学習者の動機や目標、職業、興味、趣味、ライフスタイルなどに沿って学習をサポートし、学習者の反応や脳の状態を見ながら、学習意欲を高く保てるよう様々な働きかけをします。よく受講生に「そこまでやってくれるんですか」と驚かれますが、コーチのゴールは学習者にゴールを達成してもらうことですから、そのためにコーチが尽力するのは当然です。
言語コーチングのセッションは目標言語(例:英語学習なら英語)で行われるのが一般的ですが、私は日本語で行っています。セッションは目標言語を練習する場ではなく、学習者が自らの学習プロセスについて考える場だということを明確にするためです。学習者の母語でセッションを行うことにより、コーチは学習者の抱える悩みやもどかしさを素早く的確に汲み取ることができます。その情報に基づいた働きかけをすれば、学習者の「目からウロコ」体験は起きやすくなります。また、対話を通じてコーチが受講生の母語でのコミュニケーションの特徴を観察できるのも大きな利点だと考えています。
コーチングを経て、受講生が自分で自分の力を伸ばす方法を見つけ、学習の習慣をつけて、自立した学習者としてコーチの元を巣立っていく。その姿を見送ることが、私たち言語コーチの何よりの喜びです。