カテゴリー分け / 16パーソナリティ / MBTI / アサーティブ、タービュラント / 外向的、内向的 / ブライアン・リトル (Brian Little) / オーセンティシティ / 「個人」から「分人」へ / Ladder of Inference
えみ
このポッドキャスト『まなびのはなし』では、大人の学びをサポートしているふたりが、それぞれ見つけた、考えたことを話したいから話しています。
倫子
はーい、よろしくお願いします。
えみ
よろしくお願いします。
倫子
今回は性格特性診断について話していきたいと思います。
準備として、今日は収録の前に二人とも「16パーソナリティ」っていう性格診断を試してみました。その上で、学びの文脈での性格特性診断について話せたらなと思います。
えみ
この診断をやってみようってなったのには、先週からの続きがあるんですよね。
倫子
そうそう、そうだった。
前回、コルブの経験学習のフレームワークを使って、「コルブは、学習のタイプも9つぐらいに分かれると言ってます」みたいな話をした後、えみさんが「9タイプに分ける、分けられるっていうことに引っかかる」みたいにおっしゃったんです。
そこから、「そういえば性格診断とかも分けるよね」みたいな話になって、今回につながりました。
えみ
うーん。研究者のめんどくさいところなんですけど、私としては「人間をカテゴリー分けする」っていうことに、そもそもちょっと抵抗がある。
たとえば血液型で性格が分かる、みたいなのも。
倫子
はいはいはい。あれは4タイプですね。
えみ
プラス、マイナスあるにしても、基本的には4タイプ。星占いや干支は12。笑
前回、コルブさんの流れで出てきたのは「9タイプ」。
そうやって「分けちゃう」っていうことに違和感があるんですよね。
倫子
「ティーチングとコーチング」の回でも話したような気がするんですけど、マンツーマンだったら、相手に合わせて、無限の学びの形を提供できますよね。
一方で集合研修だと、まず最大公約数で設計するという前提で、大きく「3パターンぐらいの人がいるかもな」みたいなことを想定します。その時にカテゴリーみたいのがあると便利なんです。
性格特性も、9なのか16なのか、あと4が多い気もしますけども、いろいろあります。便宜上、まったくないよりは少し解決策というか工夫のヒントになる。限界をわかった上で、使うことはできるのかなと思ったりはします。
えみ
まあ、私はカテゴリー分けに前向きじゃないからこそ、1対1のサービスを始めているわけですよ。
一方で、グループ、クラス、団体を相手にする時には、そうも言ってられない現実があるのは知っているので、「カテゴリー、タイプ分けが役に立つ場面もあるよ」っていうのは理解しています。
倫子
ちなみに、こういうのが好きじゃないえみさんでも、今までの教育に関わってきた軌跡の中で、カテゴリーを見立ての参考にするとか、使ったことはあったんですか?
えみ
んー、ないですね。
倫子
あー、ないんだ。
えみ
たとえば30人ぐらいのクラスを持っていたとしても、考えたことがないと思います。
倫子
ああ、なるほど。確かに私もインストラクショナル・デザイナーとしてこれを使ったことはないかもしれない。
上司として使ったことはあるし、部下として使わされたこともあるし、チームの中で対話をするみたいなところで使ったこともある。あとは自己理解に使うことがすごく多いです。
他者理解に使うというよりは、「大人の学びに関わる自分の癖を知る」という意味で使うみたいなことの方が多かったかもしれない。
えみ
なるほどね。
自己理解も含めて、私は経験したことがなかったので、今回初めて、倫子さんに教えてもらって「16パーソナリティ」をやってみました。
後で調べたら、これ、ここ10年ぐらい、すごい人気だったんですね。
倫子
笑 今回使った「16パーソナリティ」は、英語圏で作られたツールです。
たぶん、いちばん知名度が高いのは MBTI (Myers–Briggs Type Indicator) 。価格的にどうなのかみたいな話もあるんですけど、マーケティングがうまくいってて、ビジネス界で知ってる人が多いのが MBTI です。
「16パーソナリティ」は MBTI とちょっと似てるツールで、気軽に使えるから今回使ってみたわけです。
ちなみに、こういう自己理解系の診断ツールって、世の中に2500ぐらいあるらしいです。『insight(インサイト)』っていう本に書いてありました。
えみ
まあね、人気なのはわかる気がしました。
倫子
笑 でも一時期、「MBTI のこれとこれのカテゴリーの人はリーダー、上司として適正がある」みたいな使われ方をしたことがあって、それに当てはまらない人の社内での立場とかが問題になっていました。
最近はダイバーシティー(多様性・相違)&インクルージョン(受容・包括)の流れなので、そうはならないと思うんですけど、診断ツールがラベリングに悪く使われると、「やっぱり良くないよね」みたいな話になることが結構あります。
なので、「自分の盲点に気づく」とか、「自分とまったく違う人と接する時に、想像力を働かせるために」みたいな感じで、ビジネスの文脈で使ってるイメージですね。人によって、どう使うかはいろいろですけど。
えみ
なるほどなー。使いやすいし、見た目にもかわいいし、人気があるっていうのは事実でしょうね。
倫子
そうですね、特にこの「16パーソナリティ」はかわいい気がします。ウケが良さそうな。
えみ
すごくたくさんの言語に訳されていて、一部ですけど日本語訳もあるみたいなので、それも便利。
倫子
確かに確かに。
このツールにどのぐらい信憑性があるかはサイトを見ただけではわからなかったですけどね。
学術的な視点で研究されてる診断ツールは、すごく研究されてるじゃないですか。
えみ
まあ、だから占いみたいな気分で、遊び半分でやってみる感じですね。
倫子さんは以前にもやって、今回改めて診断してみたんですよね。
倫子
そうですね。1年半ぐらい空けて、2回目です。それでどうなるかっていうのも面白いなと思ったんで、やってみました。
えみ
どうでした?
倫子
そもそも診断ってサクサク答えられるのが重要だなと思います。深く考えなきゃいけないやつとかは正確に診断できないような気がして。
このツールはやっぱり本当にうまくできてるので、サクサクサクサクって答えられて、使いやすかったなという印象です。
あと、結果がそんなに大きく変わってなかったんですよね。1年半前だから当たり前ですけど。
診断ツールの信憑性を測る軸の一つは、「再現性があるか」だと思うので、これが研究されてるかどうかは知らないですけど、「16パーソナリティ」は再現性があるツールなのかもなって。それが私の最初の所感でした。
えみ
そう、サクサク答えなきゃいけなかったんですよね。診断後に見返したら、「12分以内に終えてください」みたいなことが書いてありました。
私はそこを見逃していて、結構うんうん唸りながら「これかなー。いや、ちょっと待てよ」みたいに迷って、しかも途中で別のことやったりとかもして。笑
もし回答時間を測ってたら無効になっちゃいそうなくらい、時間をかけてしまったんですよね。笑
倫子
笑 あ、そうなんですね。中断してるのは別に良いんじゃないですかね。1個の問いに対してああだこうだ考えて大きく動くっていうのは、作り手は想定してないかもしれない。
えみ
「なるべく真ん中にならないように」と書いてあったのも完全に見逃していて、結構真ん中にしちゃったし、結構迷っちゃったし。
倫子
これ、5つの軸で結果出ますよね。それに関して何か感じたことってありますか?
こういう診断をめったにされないってことは、「こういう軸で結果出るんだ。ふーん」みたいな感じだと思うんですけど。
えみ
まあ、これも感じ悪いですけど、回答しながら「こういうことを聞いているんだな」「これとこれを比べてるんだな」って予感がしていたので、結果が出た時には、「あの回答がここに響いてるんだな」と。理由付けとして納得した感じですね。
倫子
確かに。質問でなんとなくわかりますよね。「ここでこう答えたら、こういう結果になるだろうな」みたいな。
えみ
なので、結果を見て意外だったところは別にないです。
倫子
私はこういうのを相対的に見るのが好きなので、えみさんの結果と私の結果を横に並べて、すごく面白いなって思いました。並べると頭が動き始めるというか、心も動くみたいな感じで、楽しかったです。
この「16パーソナリティ」がどういうものかわからない方のために説明すると、診断結果が5つの軸で出てきます。たとえば内向的、外向的のように対になってる二極のどこに位置するかみたいなことをマッピングしてくれるツールなんです。
えみさんと私は、似てるところと似てないところがありました。それを見ながら、「やっぱりこういうツールは、自分一人の結果を見るより(複数の結果を見比べた方が)面白いというか、有益な使い方ができるな」と思いました。
えみ
ほう。倫子さんの「面白いな」「心が動いた」っていうのは、たとえばどういうことですか?
倫子
大人はいろんな体験をして、いろんな価値観を持って学びの場に来ているので、たとえば「直感で物事を決めるタイプか」とか、「感覚を大切にするか」とか、「情報に対してどういうふうに向き合う傾向があるか」、「向き合った情報に対して、どういうふうに意思決定をする傾向があるか」っていうのが、自分と似てるかどうかを見ます。
自分と似ていない人の場合は、自分の前提を押し付けないように、少し意識するかなと思いますね。
えみ
なるほど。似ていないところを見ると、「じゃあどうしていこうかな」って考える材料がもらえる。
倫子
そうですね、それが一番大きいですかね。
えみ
特に似ていないところが2つ出てきたんですよね。
倫子
そうです。我々の間には2つ。
MBTI の軸は4つだったと思うので、この最後にある「アサーティブ(積極的、自己主張型)かタービュラント(反省、慎重型)か」っていう軸は初めて見ました。
えみ
これ、日本語訳がないんだ。「アイデンティティ」の軸ですね。
倫子
私がアサーティブ78ですごく強くて、えみさんは中間って感じですよね。51で、ほぼ真ん中。ちょっとだけタービュラントの方が強い。
えみ
50はないのかな?
倫子
あ、ないんじゃないかな。どっちかに寄せないとカテゴリー分けできないですもんね。
えみ
そうでしょうね。だから、「限りなくアサーティブに近いタービュラント」でしょうかね。
倫子
そうですね、たぶん。
なんで日本語訳がないんですかね?
えみ
どっかにあるのかもしれないけど。
アサーティブは、慌てない。どっしりって感じでしょうか。だから私の方がそわそわ、ざわざわしちゃうってことですね。
倫子
そうですね。
えみ
わかります、わかります。笑
倫子
アサーティブのところには、「嵐の中で静かにいる」みたいなことが書いてあります。
えみ
たとえば、「終わったことを、くよくよ後悔しちゃったりしますか?」っていう質問がありました。そういうところに違いが出てるんじゃないですかね。
倫子
けど、51だから。笑
もう一つの違うところは、エクストラバーテッド(外向的)とイントロバーテッド(内向的)。外の人と関わることでエネルギーを得るか、自分の内なる声と向き合って、自分一人の時間を持つことでエネルギーが補充されるか、みたいな軸です。
私は「外向」寄りの60前後で、えみさんが「内向」寄りの60後半なので、やっぱり少し離れてる感じはしますね。
えみ
まあ、私に関しては安定の内向型なので、これも驚きはないですね。笑
倫子
ちなみに私は、学びの文脈で、この「外向的・内向的」を意識したことはあまりないです。
他の「直感が大事」とか、「感覚、フィーリングが大事」とかは、情報をプロセスするところに関係するんですけど、「その人が人と話すことでエネルギーをチャージするか、そうじゃないか」っていうのは、そんなに気にしてないかも。
ホームワークを設計する時に、「たくさんの人と話さなきゃいけない」とか、「誰かとこれを実践してみてください」みたいにすると、内向型の人にとっては、心の負担が少し大きいかな、とか。
セッションの中でグループワークにした時に、「たくさん発言するのは、外向型の人が多いな」とか。そういう時に、なんとなく参考にはしますけど。
先ほども話したように、研修の設計をする時に、診断のことをすごく考えるわけではないんです。
外向型と診断された人でも、学びの場では、状況とか、コンテンツとか、周りに誰がいるかによって、意外と普段どおりとは限らないので、(診断結果を)過度に参考にしないようにしています。
それよりは、その場でどういう状態でいるか、どういうふうに行動するかを見て、それに合わせる方がいいのかなという気持ちです。
えみ
ブライアン・リトル (Brian Little) が TED Talk の中で言っていましたが、やらなきゃいけないプロジェクトが巡って来たとき、人は自分のタイプと違う動きをあえてすることがあります。
たとえば英語学習の文脈だと、「本当の自分は内向的だけれど、これのために少し外向的な素振りを頑張ってやっています」とか、「やる覚悟があります」とか。
同じプロジェクトでも、人によってハードルの高さには違いがあると思うので、「その人にとって、どれだけ高いハードルを超えたのか」っていうところを見るようにしています。
すごく超えたときには、「すごい勇気を出したな」「素晴らしいな」って強く感じる。そういう違いはありますね。
倫子
あー、それ、わかります。逆に、いつもたくさん発言するタイプの人がグッと我慢をして、その場で内省にかける時間を増やしている、みたいな努力をしていることを目撃したとき、「頑張ってるね」みたいな。
えみ
そうですよね。
本来の自分をある程度、自覚するっていうこととは別に、「だからこそ、あえて違う行動をしてみる」。
またコンフォート・ゾーンにつながってきそうですけれど、あえて自分の壁を破って、違う自分でチャレンジしている。
それを見つけると、「あ、伝わってるよ」って、すごく感じるんですよね。
倫子
リーダーシップ育成の文脈で、特に欧米でなんですけど、「オーセンティックな(偽りのない)リーダーであろう」みたいな論調があります。
ありのままの自分というか、自分の価値観や感情をオープンにして、リーダーとして周りを率いていこう、みたいな使われ方なんですけど、オーセンティシティ、オーセンティックさのパラドックスとか、ジレンマみたいなこともあるんです。
全部ありのままの自分を、どんな状況でもダダ漏れさせればいいわけではもちろんなくって、そのバランスがやっぱりすごく重要です。
この場で自分が求められている役割を担うために、できる限りオーセンティックにいながらも、期待された役割に応えるみたいなバランスが重要なのに、たまに、「ありのままでいい」と捉えている人がいます。
「これが自分なんだもん」で、相手に受容してもらおうとするのは間違ってるよ、みたいな話です。このブライアン・リトルさんの TED Talk につながっているかもしれないなと思いました。
えみ
「嘘をつかない」っていうのは、価値のあることではあるんだけれど、「自分が違和感を覚えることを、あえてやってみる」とか、「ここではその役割を果たす」っていう使い分けとかは必要ですよね。
倫子
そうですね。ある種のプロフェッショナリズムとか、場と相手に対するリスペクトの現れかなと思うんですよね。その線をどこで引くのかが、すごく微妙ではあるんですけど。
えみ
倫子さんが描いているのは、リーダーとその他の人物が実際にいる場面だと思うんですけど、私が関わっている学習者にとっては、たとえば、日本語を話す自分と英語を話す自分っていう、一人の人の中で分かれているようなところ。
倫子
あー、はいはい。
えみ
その2つをどれだけ近づけるか、遠ざけるのか。考え方はそれぞれでいいと思うんですけど。
極端な例だと、日本語で話している自分は、あまり話さない。おとなしい。英語で話す自分は、大胆で積極的みたいに分けている人もいます。
そうではなく、2つが融合して、後々1つになっていく。「どっちも自分」って思えるところまで行くために、どんなふうに英語を使っていくかみたいな話になることもあります。
倫子
ああ、すごくわかります。
私の友達の子供で、8歳なんですけど、スペイン語で学ぶ学校に通っている子がいます。アメリカ人で、家で話すのは英語なんですけど、スペイン語を話す時は、ダイナミックでラテン。英語をしゃべる時とはキャラが全然違うらしくて。
その子が意識して使い分けているかは別として、やっぱり同じ人間でもタイプが変わる。
10年前ぐらいに出た、『私とは何か ―「個人」から「分人」へ』っていう本のことを思い出しました。
「個人」っていう一人の自分より、人を分ける「分人」。一人の中にいろいろあるよっていう話です。
だからなおさら、一回の性格特性診断で出た結果には限界があるんだよなと考えます。
えみ
前に倫子さん、おっしゃってましたね。大人になってから学んだこと。「人間にはいろんな面がある、多層である」。
倫子
笑 そうそうそう。
えみ
ある場面では、こういう一面を見せている。でも、それが偽りのない、ありのままを出しているとは限らない。
だから、「これをやってるってことは、この人はこういう人」ってすぐ判断してしまうのは、ちょっと危ないよっていうことでしょうかね。
倫子
大人の学びでたまに出てくる心理学の用語に「Ladder of Inference(推論のはしご)」というのがありますね。
えみ
一段一段確認しながら、「ここまでできてる。じゃあ次は?」って、ステップを説明したモデルですよね。
倫子
本来は、それを確認していくべきなんですけど、思考のバイアスがあって、「あの人はこう。だからこうに違いない」って、はしごを駆け上がってしまうリスクがある。
大人の学びの中でも、「はしご、駆け上ってませんか?」「相手に対してのジャッジがあまりにも早すぎるっていうのは、危ないですよ」みたいな話をします。
性格診断も、はしごを飛ばす、便利なツールに見えるときがあります。「あの人こうだった。私もこうだった」って、スッキリするじゃないですか。
「そのスッキリ感、ちょっと気をつけながら使いましょう」みたいな感じですかね。
えみ
そうですね。脳が快感を覚えちゃうと、なかなか手放せなくなっちゃいますからね。
倫子
ラベルがかわいく、キレイに作られてれば作られてるほど、「あんな人こうだよね」みたいになってしまいがちなので。
えみ
「今日の占い」程度に楽しんでいったらいいかな。
倫子
笑
そんな感じで、今日は「16パーソナリティ」というツールを使ってみて、大人の学びに関わる人として思うこと、みたいな回ですかね。
えみ
『まなびのはなし』は毎週1回配信予定です。それでは、また次回。
