#10. 読み物との向き合い方

えみ

このポッドキャスト『まなびのはなし』では、大人の学びをサポートしているふたりが、それぞれ見つけた、考えたことを話したいから話しています。

今日もよろしくお願いします。

倫子

今日は、「読み物との向き合い方」について話してみようかと思ってます。

改めてですけど、読み物、どうやって読んでます?

えみ

読むのは、かなり苦手です。

倫子

ふーん、なるほど?

えみ

言語の世界では、「4技能」っていうのがよく言われますが。読み、書き、聞く、話す。

倫子

あー、はいはいはい。

えみ

その中で、私にとって一番気が重いのが「読む」なんです。「やんなきゃな…。やるかぁー」って。笑

倫子

えー!小説とかもですか?

えみ

小説なんて、一切読まないです。

倫子

笑 ほんっとに読んでない。なるほどー。

えみ

私は「読む楽しみ」を知らない、気の毒な人なんですよ。

倫子

えー、意外なんですけど。すごく本を読んでるイメージがありました。

えみ

留学仲間にも、文学や哲学の研究者が結構いましたけど、全っ然違うんですよね、読み物との向き合い方が。

倫子

うんうん、わかります。

えみ

本当に息を吸うように本を読んでる。かっこいい。

倫子

私は日本で高校を卒業してて、それまでずっと理系だったんですけど、アメリカに来てビジネスの世界で出会う人たちには、哲学や古典文学に精通してる人がすごく多いなと思いました。

ニューヨークタイムズにも、しょっちゅう書評が出てますけど、みんな(書評の対象である本を)読んでたりするんですよ。話題になった本を、さらっとみんな読んでる。

えみ

ね。本当に。

倫子

たとえばミシェル・オバマの自伝が出たときは、みんなさらっと読み終わってたり。

えみ

みんなその話してましたもんね。

倫子

してたよねー。してたしてた。

最近はヘンリー王子の自伝がすごく話題になっていました。そういう自伝系はみんなさらっと読んでいて、そのスピード感で読めることに、私はいつも圧倒されてます。

えみ

ま、一般化できるかどうか、ちょっとわからないですけどね。私とトモコさんの知っているアメリカの人たちなのでね。

倫子

確かに確かに。笑 一部に偏っている。

えみ

かなり偏りがあるとは思いますけど、そういうのがわりと当たり前なんですよね。

倫子

わかります。

私は渡辺由佳里さんっていう方が結構好きで。

えみ

素敵ですよね。

倫子

ね、素敵ですよね。

留学する前に、彼女が書いた『ジャンル別 洋書ベスト500』っていう本を買って、「こんなふうにベスト500って言われてる洋書を読みたいな」みたいな。

えみ

倫子

夢を持って、その本を持ってるんですけど、全然読めてなくて。

渡辺さんは『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』っていう本も書いていて、私はそれを2020年に読んで、すごく感動したんですよね。

その本自体、すごく面白いんですけど、その中に他の本が引用されてるんですよ。

「これも読みたい、あれも読みたい」って思いながら(引用されている本は)一冊も読めてない。笑 『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』を読んでおしまい、みたいな。

えみ

倫子

本当にすごいなって思うんですよね。

やっぱり読んでる量が多い人は、書き方も豊か。なので、いろんなものを読むって大切なんだなって思います。

作家に限らず、ビジネスパーソンとかも。ライフネット生命の社長だった出口(治明)さんとかも、すごい読書家で有名ですけど。

えみ

はいはい。

倫子

ああいう方々の存在を知れば知るほど、いつも自分との違いを痛感させられます。

えみ

…もう言葉が出ません。

倫子

えみ

でもまあ、そういうことです。

本がたくさん読める人たちと実際に会ったり、そういう人たちの行動を知って、憧れた上で、「自分はなんて読めないんだ…」って反省はしつつ。

まあ、そうは言っても、日々読まなきゃいけないものはありますよね。

倫子

普段は何を読んでます?

えみ

私は、文字があったら何でも読んじゃう病気なんですよ。

倫子

笑 確かに。読んでるイメージがあります。

えみ

たとえばレストランのメニューなんかも、ずーっと読んでられるんです。

倫子

え!メニューが出てくるとは思わなかった。笑

えみ

あと、前にも言いましたけど、たとえば占い。12星座みたいなのも、12個読めるんですよ。

倫子

あ!はいはい。確かに。だからやっぱり、えみさんは私より読んでるイメージなんですよね。活字に向き合ってる。

えみ

目に入ってくる文字は、片っ端から読んでしまうんです。それも読むハードルを自分で上げてしまってる要因の一つなのかもしれないなと思います。それはもう子供の頃からずっとそうで、目に入る文字を隅々まで読んでしまう癖があります。

倫子

なるほど。けど、すごいですよね。

私はコミットメント(関心の強さ、熱心さ)が低いのか、目に入ってきても最後まで読まないことが多くて、すごく抽出して読んでしまう。斜め読みが多いです。

たぶん自分の興味があるものをフィルターする力がすごくあるんです。小さなスポットライトでザーって見てるので、1回目(に読んだ時は)スポットライトに入らないものが多いタイプと自覚してます。

えみ

いやー、それもスキルですよね。スキミング。

倫子

そうですね。

えみ

それがあった方が、読む量や速度は上げられると思います。

倫子

そうですね。まあ、バイアスを助長してる可能性はありますけどね。「こういう結論を探したい」みたいな確証バイアスを強化してるだけかもしれない。笑

えみ

倫子

実は私は最近、音声にした方が記事を最後まで見られる傾向があります。活字だと、途中で力尽きることが多くて。

これも、スマホによって人間の脳や行動が影響を受けている最たる例だなと思うんですけど。

えみ

いや、オーディオ(音声、聴覚)のスキルが上がっている人は確実にいると思うんですよ。

「目で文字情報を得る」っていうことに人類は長く晒されていたので、それによる効果は明らかなんですけど、「読み物を音でキャッチする」っていうのは、まだまだ歴史が浅いですから。

今後、(音で読むことが)目で文字を読むのと変わらないとか、より良い効果があるとかが出てくる可能性はあると思います。

倫子

1つ、私が試してみたいなって思ってるものがあります。Readwise っていうツールで、ポッドキャストで紹介してくれている人がいたんです。

いろんな記事を読んだものを溜めてって、後で思い出させてくれるツール。写真であるじゃないですか。Google フォトが「3年前の今日」とか。あれ私、結構好きなんです。

同じように、たとえば4年前に読んだものをリマインドしてくれるツールです。

使ってみたいなって思ったんですけど、それを使うためには、結局そのリマインドをするためのベースが必要で。Googleフォトに写真が溜まってるから「3年前の写真」が出てくるわけで。

この Readwise は、Pocket っていう記事を読みやすくするツールとか、Instapaper っていうツールをベースに機能しているらしくて。だからこれを使うためには、まず自分が読むものをツールに載せないと。

そのシステム全体を自分の行動に入れないと、こういうツールの恩恵を享受できないなと思っている状況なんですよね。

えみ

なるほどな。いやー、これ、すごく便利そうだなって思うんですけど、今まさに倫子さんがおっしゃったとおり、これまでに読んだ厚みがある人向け。

まあ、アメリカには厚みがある人がたくさんいるので、その人たちが、自分の読んだものを整理するのに使うんだろうなっていう気がしますね。

倫子

そうなんです。これを「すごく良かったよ」って紹介してくれてた人は、リーダーシップの本を何百も読んで、それについてポッドキャストをやっていて、明らかにたくさん読んでる人なんですよね。

明らかにたくさん読んでるから、「そりゃそうだよね」って思います。

Pocket や Instapaper というツールでハイライトする(マーカーで印をつける)っていうことを、今まで9年なり10年やっていれば、その積み重ねが、この Readwise を使うことによって、「は!」ってなると思うんですけど、積み重ねがない場合はどうすれば…。

えみ

そうなんですよね。積み上げも、最初はいつでも1つ目からなので、いつ始めても確実に積み上がり始めるっていう面は、あるにはあるんですけどね。

倫子

そうですね。

えみ

いま「ハイライト」っていうのが出ましたけど、倫子さん、読みながらハイライトしたり、付箋を貼ったり、マークをつけたりしますか?

倫子

うーん…。基本的にはしてないです。ツイートするとき、一番印象に残った一文に、とかはしますけど。

紙で読む時とか、iPad で大学院の宿題の記事を読む時にはしています。そういう「さあ読むぞ」みたいな状態になってる時は、ペンを持ってたりすることが多いです。

けど、95%は「読むぞ」っていうよりは、携帯で、マルチタスクでいろんなことをやりながら、パッと記事のリンクから読んで、サーッてブラウザで見ておしまいってことが多い。携帯上でハイライト機能は使ったことないですね。

えみ

デバイスとしてはスマホ?

倫子

スマホですかね。まあ、仕事中は携帯じゃなくて、パソコン上で記事を見ることももちろんありますけど、携帯でも結構な量を読んでる気がします。

携帯でメールをチェックして、そこのメルマガに行ったものをクリックする、みたいなのが多いんですよね。「タブが500ぐらい開いてる」みたいなタイプの人です。

それだと携帯で見ることが多くなって、携帯だとハイライトしないですね。

えみさんはハイライトする派?

えみ

そうですね。というのも、いま倫子さんがおっしゃって「は!」って思ったんですけど、私が読む時って、毎回「読むぞ」なんですよ。

倫子

あ、なるほどなるほど。「読む時間」になってるわけですね。「今はインプットの時間」。

えみ

うん。私はそういう時間を組み込んで読ませないと、読まないので。笑

倫子

笑 なるほどなるほど。

えみ

読んでるっていうことは、そういうモードで読んでいる。

倫子

付箋もあるし、ペンもある。

えみ

そうですね。Kindle だとハイライトした箇所を勝手にまとめてくれるので、読み終わった後、ハイライトや付箋を付けたところを抽出して溜めておく。そこまでセットでするようになってしまっていますね。

倫子

なるほど、なるほど。

今回は学習者ではなくて、自分たちの話ばかりしてますけど、たとえば(研修の)事前に読み物を渡したときに、渡された相手がその読み物にどう向き合うかも、同じくらい多様なんだろうなと思いますね。

えみ

そうですね。

倫子

流し読みをしている人もいれば、付箋を付けて、横にメモとか記載しながら、しっかり読む人もいるかもしれない。

私の大学院の授業のクラスメイトに、(教科書などを)3回くらい読んでる子がいます。すっごいしっかり読んでて、すごいな、みたいな。

読み物に対する向き合い方が、一人一人違いそうだなって改めて思いましたね。

えみさんと私でも結構違うかも。

えみ

そうですね。

うちの受講生の場合は英語学習者なので、読むスピードや、読んでいて引っかかるところをチェックしたりしています。

日本語であろうと英語であろうと、読み物に対するそれまでの蓄積とか、読むことが楽しいか苦痛か、とか。そういうことにも違いがありますからね。

「どう読んだか」を確認すると、メタ認知がぶわっと開けるかもしれないですね。

倫子

それを聞いてて、一つ思い出しました。大学院のオリエンテーションの中で、「ケーススタディの読み方」っていうトレーニングがあったんです。そこでは「最低3回読む」と言われました。

1回目は「どんな感じのことが書いてあるんだろう」っていうのを読む。2回目はディテールを意識しながら読む。3回目は「自分だったら、どうしてただろう」みたいなことを意識して読む。

「ケーススタディっていうのは、読み方を変えることで味が出るように書かれているので、味わえ」みたいな指示をされました。

そういうインプット(情報、アドバイス)があると、ケーススタディの宿題が出たときに、「ああ、そういえば読み方がいろいろあるって学んだな」みたいな。それがなかったら、自分はサラッと状況だけを確認しておしまいにしてたかもしれない。

それによってマインドセット(物の見方)がしっかり固定される。

えみさんが学習者の方にしてるのは、「こういうふうに読もう」っていうマインドセットのきっかけになったりするんだろうな、って思いました。

えみ

「3回読む」って聞いていれば、「この分量×3の時間をとっておかなくちゃいけないんだな」という予定も立ちますしね。

「全体がこれくらいあるのか。であれば、今日はここまで読んでおこう」みたいなチャンクダウン(より小さな塊に分けること)も、読みを促進するために使える気がしますね。

倫子

ですねー。いや、面白いですね。「読み物との向き合い方」っていうだけでも、えみさんと話しながら、いろんなことを考えさせられますね。

えみ

いま倫子さんは現役の学生さんですが、図書館の利用についてはどうですか?

倫子

いやー私、大学の時と、1回目の大学院の時を振り返ると、図書館を全然活用しきれてなかったんですよね。

で、今はさすがに大人になって、リソースにアクセスできることに対して、すごく敬意を払っていると思います。

図書館はオンラインで使えるので、かなりの確率で(蔵書の)デジタル版の資料が手に入ります。

本もそうだし、記事もそうだし、研究論文もそうですけど、すごいですよ、アクセスできる量が。Google とかで検索して見つけられる量とレベルが違う。

そこへ直接アクセスできるので、オンライン図書館をすごく使っています。

えみ

やっぱり図書館も、「膨大に読める人たちが、たくさんいる」っていう前提でできてるんだなって、すごく感じるんですよね。

倫子

うんうんうん。

えみ

読みたい欲求や、必要な情報を探す(ニーズ)など、まさに大人の学び方に適応しているので、アメリカの図書館の仕組みは素晴らしいなと思っています。

倫子

あー、なるほどね。確かにそうですよね。

ChatGPT の回でも、「目的意識があって、探したいものがある時は便利だよね。でも、そうじゃない場合は使いこなせない」みたいな話になったと思うんですけど、オンラインの図書館と似たところがあるなと思います。

えみ

そうですね。

倫子

だからこそ、図書館の専門家、ライブラリアンがいるじゃないですか。「こんなことを探したいんだけど」っていう、ざっくりしたものでもサポートしてくれる人間がいる。「今月のお勧め」など、プッシュしてくれる仕組みもある。

その両方があるから、目的意識がある人も、あんまない人も、とりあえずドアを開けさえすれば、いろんなことが学びの刺激になる。それがアメリカの図書館だなって、私も思います。

えみ

読み手の成熟具合、蔵書の幅や層の厚さ。それが膨大でありながら高速にアクセスできる。そこが(アメリカの図書館は)圧倒的に優れているなと思います。

現役学生は、それがフルに使えるので、ぜひたっぷり使ってください。

倫子

えみさんの大学は、アルムナイ(卒業生)向けの図書館へのアクセスは一部あったりするんですか?

えみ

あります。

倫子

あ、やっぱりあるんですね。

えみ

ありますけど、やっぱり一部なんですよ。かなり制限を感じます。

私は現役の時、もう本当に、めちゃくちゃ図書館にお世話になったので。

倫子

いや、そりゃ博士号の人はすごい使ってそうですよね。

えみ

倫子

確かに私も、まだまだ図書館を使い切ってない気がするんですよね。オンラインだけですごい満足してて。

在校生の特権っていうのはすごいわかってるし、卒業生も、もちろんアクセスはあるんですけど、制限があるのも知っているので。

えみ

羨ましい。

倫子

笑 何かあったら言ってください。

えみ

倫子

本当すごいですよね、この仕組みはね。

えみ

本当に。「豊富っていうのは、こういうことなんだな」って思います。今はその権利を失ったので、なおさら。だから、ぜひ!活用してください。

倫子

笑 はい、活用します。

このポッドキャストでも、テーマによっては参考資料を図書館で探してみようかなと思います。

えみ

笑 ぜひ。

というわけで今回は、読み物について話しました。

『まなびのはなし』は毎週1回配信予定です。それでは、また次回。