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日系精密機器メーカーで経営企画に携わる丸山 賢人さんに、音楽、音声、発音など、英語の「音」に対する強い興味を中心に、挫折や苦労からの学び、「気づいたら走力が上がっていた」という感覚などについてうかがいました。
丸山 賢人 Kento Maruyama
群馬県出身。両親が海外でも通用するようにと名付けてくれた名前から、幼少期より海外にぼんやりと興味をもつ。小学生の頃、ビートルズを歌いながら自然と英語に親しむ。中学時代、初の海外渡航となったオーストラリアでのホームステイで全く意思疎通ができず挫折を経験。「絶対に英語を身につける」と決意し、勉強に没頭。ほぼ英語だけで受験を乗り切り、東京外国語大学に進学。在学中はアメリカに1年留学。卒業後、海外勤務を志して日系精密機器メーカーに入社し、2012年から5年間アメリカ・ニュージャージー州に赴任。帰国後6年間の日本での勤務を経て、2024年よりイギリス・マンチェスターに駐在中。現在は欧州の販売会社を束ねる統括会社で経営企画に従事。
Emi
まずは自己紹介からお願いします。
Kento
丸山賢人と申します。群馬県出身で、名古屋の会社に勤めているんですが、仕事の関係で海外赴任中で、今はイギリスのマンチェスターにおります。
Emi
プロフィールによると、ご両親が願いを込めて「賢人さん」と名付けられた。実際に海外で通用するという実感はありますか?
Kento
ありますね。(Kento の)最後に「o(オウ)」が付いちゃってますけど、Kent という地名や名前はわりとありますので、「発音しづらい」とか言われたことはまったくなく、スッと受け入れていただけます。だから通用するんだろうなと思っています。

すごく古い話ですけど、僕が子どもの頃、テレビに「ケント」って名前の人が出ていて。ケント・デリカットとか、ケント・ギルバートとか。
Emi
あー!外国人の方で?
Kento
そうそう。そういう人がいたので、なんとなく「ケントっていう名前の人が外国にもいるのね」と思っていました。
Emi
じゃあ本当に、ご両親の狙ったとおりになっているんですね。
Kento
そうですね。笑
Emi
最初に英語と出会ったのは、いつ頃?
Kento
幼稚園の年少ぐらいの時から英会話教室に通っていたので、そこからです。ヤマハ英語教室です。
Emi
その時の印象は?
Kento
教育テレビでやっていた子ども番組、『えいごであそぼ』みたいな感じで、アルファベットに節をつけて覚えようとか、ゲームをやったり、歌ったり。そういうのを組み合わせて発表会をやるとか、そんなことやってたなーと。
Emi
楽しそうな、ポジティブな思い出?
Kento
そうです。ただただ楽しくて。
Emi
小学校で英語はあった?
Kento
学校のカリキュラムにはなかったですが、小1ぐらいまでヤマハの英語教室に通っていて、小2から小4までは別の英会話学校に行きました。
Emi
自分から行きたくなった?
Kento
いや、ずっと受け身で。親がいろいろ習わせたかったんでしょうね。「習い事、何やりたい?」っていっぱい聞いてきて。「ピアノがいいんじゃない?」とか、「公文式がいいんじゃない?」とか。特に、同級生の親で教育熱心な人がいたので、その人に教えを請いながら、その同級生と一緒のところへ行く。そうやって情報収集して、「じゃあこの英会話に」と。すごく受け身で、流されてました。ぜんぜん抵抗がなかったんです。
Emi
たくさん習い事の選択肢がある中で、拒否したものもある?
Kento
いま考えるともったいないんですけど、「ピアノは嫌だな」ってなんとなく思っちゃって。今は「やっときゃよかった」としか思わないですけど。笑
Emi
小学生の賢人さんはちゃんと意思をもって、嫌なものは「嫌」と言っていた。英語は嫌じゃないから、「まあ行っとくかな」と?
Kento
そうですね。まあ単純に楽しかったんです。小2~4で行っていた英会話学校では、ハンドアウト*が出てきて、そこに何かフレーズが書いてあって、「これを使って会話してみましょう」みたいな。先生1人と受講生が3~5人ぐらいいて。そんな感じだったんですけど、楽しかったんですよね。
*handout: (授業などで配布する)資料、プリント
Emi
幼稚園の時は「英語を使って遊ぶ」という感覚だったのが、小学生で「フレーズや文を覚えて使う」に。「楽しかった」ということは、話せていた、わかっていたということ?
Kento
ある程度、その場ではそうだったと思います。ただ、「その時に覚えた言葉がこれでね」のように、それが以降、役に立った感じはないです。笑
少なくとも、(英語に対する)心理的なハードルはなくなったんだろうなと思います。
Emi
(英会話教室は)塾など、勉強に行ってる感じだった?音楽や遊びの感覚?
Kento
習い事に近いんじゃないかなと思います。ピアノを習いに行くような感覚。小4からは学習塾や公文式に通い始めて、英会話はそこで一旦止まってしまいます。
Emi
習い事が勉強になっていく中で、英語は外れていった?
Kento
そうですね。ただ小4までやって、中1から今度は学校のカリキュラムとして英語が始まるじゃないですか。また英語に出会って、そこからまた好きになっていくんです。
Emi
再開した英語は、どんな感じだった?
Kento
「めちゃくちゃ簡単だな」と思いました。笑
Emi
4年生までに積み上げてきたものが生きてきて、中学の英語はスムーズに。そこから先はどうでしたか?
Kento
そこから先は、中学でもいつもすごく得意でした。点数が取れると嬉しいじゃないですか。テストや通知表で評点が良いと嬉しいので、どんどんやっていました。

Emi
英語はすっかり得意科目に?
Kento
そうですね。あと、お勉強っぽくないところで英語に慣れ親しんだ面もあって。それがビートルズの音楽でした。
Emi
ビートルズの、何の歌とか、覚えてます?
Kento
たとえば『From Me to You』、『She Loves You』、『A Hard Day’s Night』。親がもともと若い時に好きで、レコードで持ってたものを CD で買い直して聴いてる時期があったんです。リバイバル版の CD がいっぱい発売された時期で、親がそれに乗っていろいろ買ったり、ビデオを観たりするのを一緒に観て、「うわ、めっちゃいい」って。笑
Emi
ご両親も歌っていた?
Kento
そうですね。口ずさむ程度ですけど。僕は僕で、結構好きになって、歌詞カードを見ながら歌ってみたり、ちょうどその頃はじめたギターを弾きながらコピーしたり。結構どっぷりハマって、ビートルズが好きになっていました。
Emi
小学生でビートルズを弾き語りしていた?
Kento
弾き語りまではいかないですけど、ギターと歌を別々にやっていました。笑
Emi
それは楽しいですよね。
Kento
うん、楽しいんですよ。で、歌詞をしっかり覚えて、発音にもめっちゃ気をつけてコピーしていた。そしたら後々、これがすごく役立つんです。その覚えてる歌詞の言い回しが、文法問題の解答になったりする。
Emi
具体的に覚えているフレーズはある?
Kento
たとえば『From Me to You』の「If there’s anything that you want, if there’s anything I can do」。
Emi
仮定法、条件ですね?笑
Kento
はい。それに「There is ~」の構文と、(関係代名詞の)that。
『She Loves You』だと、「You think you’ve lost your love」に現在完了形が入ってる。
Emi
「have lost」のところですね。
Kento
そうですそうです。あと、「you know you should be glad」で「should ってこう使うんだ」とか。
こういうのを、もともと音楽が好きで歌っていたので、歌詞の意味がどうこうというより、音として全部覚えている。頭に定着しているんです。で、英文法を習ったときに「こういう構文で…」って言われると、「あ!これビートルズの歌詞じゃん!」ってつながるわけです。
Emi
すごい!
ビートルズをコピーしていたのは小学生の時。学校で条件や現在完了を習う中2~3になって、歌詞を思い出した?
Kento
そうですね。まあビートルズは小学校でやめちゃったわけじゃなく、ずっと聴いているので、忘れているってことはなく。歌詞はしっかり覚えたまま聴いていたんです。
Emi
スタートしたのは小学生だけど、中学では学校の勉強と並行してビートルズを聴いていた。で、教室で文法を習うと「あ、あれじゃん!」と。
その時、歌詞の印象は変わった?
Kento
意味がわかりますよね。「ああ、こういうニュアンスだったんだな」と。
Emi
知らずに歌っていたけど、カラクリが見えた。やっぱり英語を浴びせておくのには意味がある?
Kento
あるんじゃないですかね。これは趣味嗜好によるので万人に良いかはわからないですが、音楽はいいんじゃないかと思います。耳から聴いて、口から出して。まさに五感を使った学習なので、いいと思いますよ。
Emi
賢人さんは早い段階から「自分は音で学ぶのが好き」「歌詞の中に文法が使われている」と気づいていた?
Kento
そうかもしれませんね。歌詞カードには対訳がついていたので、「こういうこと言ってんだ」と思いながら聴いていました。
Emi
歌詞の内容は日本語で確認しながら、知らないうちに文法を吸収して、後で学校で解説を聞く、という順序だった。
学校では文法はよくできる、歌も楽しんでいる。そんな感じだった?
Kento
あのですね…。英語はすごい得意科目になっていったんですけど、1つ挫折を経験していて、それがかなり後に効いてくるんです。
Kento
中学2年生の時、たまたまオーストラリアで1週間ホームステイをする機会があったんです。住んでいた市と、オーストラリアの市が姉妹都市提携を結んだ最初の年で、「交流プログラムがある」というアナウンスがされたので申し込んでみよっかな、と。それは自分で思ったんです。で、面接にも受かって、楽しみにして行きました。

けど、なーんにも話せなくて。ぜんぜん意思疎通ができない。
Emi
ホームステイということは、ホストのお母さん、お父さん?
Kento
はい。それと兄妹がいました。高校1年生ぐらいのお兄ちゃんと、同い年か1個下ぐらいの女の子。4人家族でした。
Emi
大人2人と、同世代の子ども。その中に入ってみた。
Kento
本当に会話ができないんですよ。ずっと、言いたいことがあるのに言えない、聞きたいことがあるのに聞けない状態。ごはんを一緒に食べて生活するんですけど、ぜんぜん意思疎通ができない。なんて言ったらいいかわからない。日本語を言っても向こうはわからない。
今みたいにスマホがあるとか、書いたらわかるとか、そういうこともないから、意思疎通の手段が何もない。「わーーー」ってなりました。笑
Emi
たとえば、初日に会ったときの挨拶とかは?
Kento
挨拶は当然、覚えて行くのでできるんです。「Hello」「Good morning」「Nice to meet you」とか、なんだかんだ。
Emi
滑り出しとしては、悪くないですよね?
Kento
はい、全然。挨拶はできるんです。ただ、長い時間を一緒に過ごす中で、たとえば「お風呂、先に入っていいよ」と言われた時に、「あ、ちょっと後にしたいです」というような何気ない会話ができない。
食卓で「食べ物で何が好き?」と聞かれた時には、「この食べ物、なんて言うんだっけ?」「『焼きそば』をなんて説明すればいいんだ?」となって、「あーのー、ヌードルで…」ぐらいしか言えない。笑
Emi
ホストファミリーの方は、賢人さんに話しかけてくる?
Kento
そうですそうです。すごく優しくって。話せない自分にも、終始がんばって話しかけて、コミュニケーションを取ろうとしてくれたんです。それがわかるから、辛い。返せないことが辛い。笑
Emi
なるほど。でも今の感じだと、質問されている内容はわかっていたのでは?
Kento
ああ、そうですね。ゆっくりしゃべってくれますんで、質問されていることはわかる。ただ、答えられない。
Emi
間(ま)があいちゃったり、なんて言ったらいいかわからなくて、ちょっとパニックに。決して食卓がシーンとしていたわけではなく、気さくに話しかけられるけれど、賢人さんは1人、実はパニックになっていて、家族もどう助けていいかわからない。
Kento
そうなってたんじゃないかな。自分は話せる言葉は最大限、話すんですよ。たとえば、何か食べながら「これ、何?」とか。「〇〇だよ」と言われて、「へー。おいしい」とか、そういうことは言うんですけど、そこ止まり。対話が深まっていかないので、すごく悔しくて。
Emi
いや、でも中学生で初めて日本からオーストラリアに行った子が、その家の中で健闘してるようにも思います。
Kento
…そうですか?
Emi
聞かれてることはわかってるし、なんとかつないで一応答えているし、自ら質問もしている。十分やれてるんじゃないかと思うんですけど、ご本人は「全然ダメだ」「悔しい」というのが強かった?
Kento
強かったですね。本当に悔しくて、打ちひしがれた状態になりました。
このとき行ったのは、クイーンズランド州というオーストラリアの北の方。森の中に家があって、そこの子どもたちと一緒に学校にも行っていました。ひと通りプログラムが終わって、最後はシドニーに寄って、ちょっと観光して楽しく帰る、みたいな感じだったんですけど、僕はぜんぜん楽しくなくて。笑
Emi
笑
Kento
もう悔しくて。「絶対に英語を身につけるしかない!」と決意するわけです。「この人たちと、ちゃんと会話できるようになって、いつか戻ってきて、ちゃんと会話したい」と思ったんです。
Emi
学校では英語が得意で、自分で手を挙げてホームステイに選ばれて。意気揚々と出国して、帰国する頃には打ちひしがれて。リベンジを強く誓った。
悔しい気持ちは、その後どうなっていった?
Kento
「もっとちゃんと勉強しよう」「向き合おう」と思って。中3になって受験があるので勉強するじゃないですか。そのまま高校に入って大学受験もそうですけど、「勉強がんばろう」と思ってやってました。
Emi
その場合の「勉強」というのは?中学でも、ちゃんとできてたのだから、何かそれ以外に勉強を増やしたということ?
Kento
塾で少し先をやっていました。中学の時に高校英文法をやるとか、受験でちょっと難しいところの問題を解いてみるとか。
Emi
いわゆる受験英語の範疇で、より精度を高めていった。会話の方は?
Kento
会話は全然してなかったんですよね。だけど、高2からまた英会話学校に行くんです。
高2ぐらいまでにまた「英語は得意だ。点が取れるぞ。これで一点突破するしかない」と。
Emi
自信を取り戻した。
Kento
はい。で、「じゃあ、英語だけで受けられる大学は?」と試験内容を見ていくと、リスニングがある。会話(の試験)がある大学はないですけど、耳だけというより、会話を通して耳は養われていくと思ってるので、親に「英会話がやりたい」と言って。
Emi
受験勉強をしながら、あわせて英会話スクールに。目的の一部にはリスニング対策も含まれていた。
その英会話スクールに入った時はどうだった?久しぶりに英語を話す感じ?
Kento
そうですね。覚えている限り、英会話を中高でやったことは…。わりと久しぶりだったと思います。
意外と「中2の時より全然話せるじゃん」とは思いましたね。
Emi
オーストラリア以降、久しぶりに英会話スクールで英語をしゃべったら、いつの間にか前よりできるようになっていた?
Kento
そうですね。これ、なんでだろう?
Emi
なんでだろう?笑
Kento
たぶん効いてるだろうなと思うのは音楽。あと、音読するんですよ、僕。笑
昔からずっと、長文読解でも問題文でも、全部音読してたんです。たぶんそういうところから、口をついて出るフレーズのストックが溜まっていたんだと思います。
Emi
人と会って話してはいないけれど、一人で問題文を音読したりして、ずっと口を動かしていた。
Kento
はい。たぶん、それぐらいしか考えられないです。
ビートルズもそうですけど、音楽が好きで、自分で再現するのが好き。それと同じで、英語のフレーズを聴いて、出して、みたいなのが好きなんです。
この(インタビューの)お話をいただいてから、「言語の何が好きなんだろう?」って考えていたんですけど、やっぱり音が好きなんですよね。大学以降の話にもつながるんですけど、いろんな言語の発音模写するのが好きなんです。フランス語の口真似をするとか、イタリア語のイントネーションとか。
Emi
タモリさん!笑
Kento
そうそう。タモリのあのネタ、めちゃくちゃ好きなんです。あんな感覚で、日本語とまったく違う音、発音の仕方を自分で再現してみるのがすごく好きだったんで、その延長で読みグセがついていて、ずーっと音読をしていました。
Emi
受験生だけど、文字に書かれた英語だけではなく、「これを音にしてみよう」という興味があった。それがおそらく英会話になった時に「あ、言い慣れてるな」という感覚につながっていった。
大学も英語を軸に進学していく?
Kento
そうですね。理数系がめちゃくちゃ苦手だったので、最低限の数学と世界史と英語だけでクリアできるところを選びました。
Emi
東京外国語大学の英語専攻。大学での経験はどうだった?
Kento
現在のカリキュラムはわかんないですけど、当時は「専攻語を多角的に学ぶ」ということを1、2年でやっていました。生成文法、認知言語学系、音声学、教育学、文学、歴史、英語史など、いろいろやる。1、2年ではゼミに入って研究するわけでもないので、初歩の部分で浅いんですけど、英語を多面的に捉える。そういう機会に恵まれて、興味が深まりました。逆に「この分野は全然興味ねえな」というところと、「めっちゃ面白い!」というところが分かれて、自分で認識できました。
Emi
東京外国語大学の英語専攻といえば、日本中から英語が得意な人が集まる。「外国語大学」って、一般的には英語をペラペラしゃべってるようなイメージかもしれないですが、実は言語学のそれぞれの科目や英語史など、英語を掘り下げていくプログラム。その中で、自分の興味のある・ないが見えてきた。
好きじゃなかったのは、どんな分野?
Kento
まずは生成文法。
Emi
チョムスキーさんですね?笑
Kento
チョムスキー。笑 あの世界はちょっと違うなと思って。もともと理数系が苦手なので、そっちに近いというか。「言語って、そういうんじゃないよな」と。
もう一つ、苦手だったのは英文学です。ディケンズ、ナサニエル・ホーソーン、シェイクスピアとか読むわけですよ。全っ然おもしろくない。
Emi
笑
Kento
笑 だから翻訳に頼るしかなくて。シェイクスピアなんて辞書で調べても、英語が古すぎて載ってないんです。「これ、どういう意味?」というのが多くて読み進められない。それが辛くて辛くて。
Emi
日本語、国語に置き換えると、古典を読んでるような感覚?
Kento
そうですね。特にシェイクスピアは劇の台本、戯曲だから…。嫌いになっちゃいました。笑
Emi
このあたり、英語が苦手な人たちに共感してもらえるかも。英語が得意な人でも、嫌いな面がある。生成文法は、英語を分解してそれが科学的にどう融合するか、みたいな世界。それから文芸。文学として美しさを味わうのは、自分には向いてないと感じられた。
じゃあ、得意、好きだったのは?
Kento
前の話にもつながりますが、音声学です。発音の世界はおもしろいなーと思って。「アメリカ英語とイギリス英語って、こんなに違うんだ」とか。
大学では1年ごとにアメリカ英語とイギリス英語が替わっていたのですが、僕の(入学した)年はたまたまイギリス英語。イギリス英語に初めて触れて、「それまでの受験英語って、全部アメリカ英語だったんだな」と初めて気づきました。
Emi
現在でもそうだと思いますが、日本の英語教育はアメリカ寄り。いわゆるイギリス英語と違うとは聞いていたけど、実際に音声学を学んで、「こんなに違うんだ」と実感した?
Kento
そうですね。発音はもうずっと前から好きなので、「ビートルズはこうやって発音してたのか!」「発音記号だとこうなんだ」「なるほど、これはこうやって発音して…」と、さらにキレイに再現できるようになっていくのがうれしかったです。
Emi
「待ってました!」ですよね。理論があって、科学的に分析されたものを自分で試してみると、本当に再現できる。ワクワクする感じが伝わってきます。
Kento
「硬口蓋摩擦音」とか。いろいろあるじゃないですか。笑
Emi
笑 よく覚えてますね。
Kento
やっぱり好きだったのは覚えてる。笑
Emi
特に「イギリス英語って、こうなんだ」と思った音や出し方は?
Kento
あー。「hello」とか。あとはイントネーション。疑問文のイントネーションが下がる。
Emi
「(what、who、how などの)疑問詞じゃなければ上がる」って教わってますからね。
Kento
ボキャブラリーでも、「tomato」とか。「/r/」とか。
Emi
音声学は好き嫌いが大きく分かれる分野。賢人さんはドハマリって感じですね。
最初の頃に「この分野が好き、この分野はあんまり」があったとはいえ、大学時代は順調に英語を深めていった?
Kento
そうですね。他に好きだったのが認知言語学系。語用論や意味論が好きで、語用論のゼミに進みました。
Emi
語用論というのは、実際の場面で言語がどう使われるかという分野?
Kento
そうですね。文脈によって同じ言葉でも意味が変わる。
Emi
英語を使う、それも音声への興味があるから、「会話で使う」ということに集約されていった?
Kento
そうですね。で、大学4年で留学をして、1年間がっつり使うことになりました。そうすると、「英語はどこまで行ってもコミュニケーション・ツールだな」と位置づけが変わってきました。いろんな場所の、いろんな訛りの人と交流するうちに、「アメリカ英語とイギリス英語だけじゃないぞ」と。笑
Emi
実際にアメリカへ行って英語を使ってみると、「アメリカ英語の中にも、いろいろあるじゃん」と。
ということは、その頃には他の人の言葉はもう完全に細かいところまで聞こえていて、自分の言葉もスムーズに伝えられていた?
Kento
そうですね。わりとできる状態で留学したなと思います。普通の会話なら。大学のカリキュラムで学問を学ぶというところでは、めちゃ苦労しましたけど。笑

Emi
日常生活で困らない状態にしてから、アメリカに行かれた。
Emi
日本で英語を専攻していた大学生は、アメリカに留学してどんなクラスを取る?
Kento
人によると思いますけど、僕は言語学系で行き過ぎていたので、実学っぽいこともやりたいなと思いました。政治経済系、特に経済とか経営とかに全振りして、マーケティング、マネジメント、統計学、経済学。そんなのばっかり取ってました。
Emi
ビジネスに直結するような分野の授業。もちろん周りは英語ネイティブの学生がほとんど。授業を受けている時はどうでした?
Kento
読んだところは理解ができる。やっぱり進度が速いんですよ。百科事典みたいな教科書を「1日30ページ読んでこい」って言われて。
Emi
アメリカの教科書は分厚いですからね。笑
Kento
はい。で、読みきれないまま授業に行っちゃった時は、しっかり置いていかれる。だから、もう本当に必死でついて行ってた感じ。わからないところは、わからない。やりきれないところは、わからない。だから、予習が追いつかなかったら、もう終わりです。
Emi
予習して知っていることならついていけるけど、ちょっと外れたり、スピードが上がったりすると難しくなっちゃう。
Kento
聞いたことのない単語がポンポン出てきますし。ビジネスをやったこともないので、マネジメントの授業では「何の話をしてるんだろう?」となったり、リーダーシップがどうだとか言われても、よくわからない。
Emi
授業でわからないことが出てくる。中学生でオーストラリアに行った時のように「ああ、もう全然わかってない」「ダメだ」「悔しい」というのはあった?
Kento
はい。その時はその時でありました。なので必死で食らいついていきますし、同じような留学生を捕まえて「キャッチアップしようぜ」とか、テスト前に「一緒に勉強しようぜ」とか、そんな動きをしていました。
Emi
「これをできるようになりたい!」というエネルギーをお持ちなんですね。
Kento
そういうエネルギーがまったく出てこない時もあるんですけど、その時はありましたね。
Emi
それを経験して、変化は?
Kento
(日本に)帰ってから気づくんですけど、アメリカの大学のペースは速いし、大量に読むので、日本での勉強が割とラクになりました。
Emi
それまで全速力で後ろから追いかけてたつもりだったのが、日本の大学に戻って、同じペースでいると「あれ、自分、速くなってる」と?
Kento
僕は今マラソンをやってますけど、練習して体力がついて、走力がついたら「あれ、なんか速くなってるな」みたいな。

Emi
本当にマラソンされてるんだ。笑
Kento
はい、これは物理的にやってるんですけど。笑
Emi
知らないうちに筋力がついて、足が速くなってるような感覚になった?
Kento
そうですね。大量の情報を浴びて、処理して、脳みそに筋肉がついた。
Emi
後ろから追いかけて、先頭集団が遠い状態は、精神的になかなか辛いけれど、必死で食らいついていった後には「あ、筋力ついてた」という発見がある。貴重なご経験ですね。
大学卒業後は?
Kento
「海外で働きたいな」と思って、海外赴任の機会がある会社を選んで就活しました。今の会社に入って、以降はずっと日常的に海外とのやり取りがあります。

海外赴任を2回しているんですけど、最初は6年目にアメリカに5年間。帰ってきて6年ぐらい経って、今は2回目の赴任の1年半。でも、入社したての頃ですら、(外国から)出張者も来るし、自分も出張するしで、英語を使う機会がありました。それ以外にも、メールはもう結構、英語だったりします。そういう面では、会社選びは間違ってなかったと思います。
Emi
大学生のうちに、「英語を使う仕事に就く」と決めて会社に入った。日本にいる間も、日常的に英語が必要な環境。さらに赴任で、生活を含めて英語を使うことになっていく。
仕事を始めた頃、英語について、「学生時代と違うな」と思ったことは?
Kento
仕事って、文脈が固定化されるんですよ。なので、有り体に言うと「簡単だな」と思いました。
たとえば、最初に配属された部署ではマーケティングの話ばっかりしていました。その分野の話とか、競合他社の話とか。あとは、メーカーなので社内のモデルのヒストリカルな内容。ある程度、文脈を理解すれば、固定化された文脈の中でボキャブラリーも固定化される。だから理解に苦労しないし、自分でしゃべることもできるから、結構簡単だな、と。
Emi
意外に思われるかもしれないけれど、仕事で話す内容や相手との関係性が「なんでもアリ」じゃなくなる。狭い範囲で、同じような表現を何度も使ったり、お互いに説明不要のやり取りがあったり。賢人さんの感覚的には「むしろ簡単だな」。
Kento
はい。特に、入社当時は一つの担当になるんで、その要素が強い。年次が進んで、仕事の幅が広がるに従って、それはもう、どんどん難しくなっていくんですよ。それこそ文脈の制約がなくなって、めちゃめちゃ広がってくる。
Emi
なるほどなー。そういう意味では、素晴らしいステップですね。文脈を狭めに始めて、だんだん広げて、難度がだんだん上がっていく。
Kento
確かにね。言語学習の面から見ると、本当にいいのかもしれない。笑
Emi
そのためにやってるわけじゃないでしょうけど、そうなってるんですね。笑
そこにアメリカ駐在が入る。これはいかがでしたか?
Kento
これはねー、苦労しましたよ。仕事が大きく変わったんです。それまではマーケティングの仕事をしてたんですけど、いきなり財務分析とか、経営戦略を作れとか、子会社を管理しろ、コーポレートガバナンス、法律、人事、IT など。いっぱい一気に入ってきて、それこそ文脈がドカッと広がりました。英語の面でも「何の話してるの、これ?」と。
担当者レベルでは、相手がそれぞれの言葉で話してくる。理解に苦しむこともあったし、勉強しなきゃいけないことも多いし。すごく苦労しました。結構、病んでましたね。笑
Emi
どうやって自分を支えていた?
Kento
まあ、やったらやっただけ、できるようにはなりますしね。あとは仕事上、関わる人が幸い良い人ばっかりで。これは言語の話じゃなくなってきちゃいますけど、「しょうがない。ちゃんと学んで、できるようになっていけばいい」と割り切りました。

「なんでできないんだ」と悩んでもしょうがない。やっていくしかない。周りはこんなに優しくてサポーティブだし、感謝してがんばるしかない。笑
Emi
素晴らしい。そういうドツボにはまっちゃった時の原因は、言語じゃないことがある。周りの人との関係に意識を向けたり、長期的な目で「今すぐではないけれど、良くなるんだ」と希望を持っていた。
アメリカ駐在は5年間。帰国してからは?
Kento
仕事そのものは、アメリカでめちゃくちゃ幅が広がったので、帰ってからは何をやってるのかもよくわかるようになりました。その後、営業企画っぽい仕事に戻って、今度は中国のお客さんを相手に仕事するんですけど、幸いそこでも中国語ではなく英語でやらせてもらえたので、また若干狭い領域になって「これはまた戦える」となりました。笑
Emi
先ほどのマラソンと同じで、アメリカで身につけた脚力で、違う分野に行っても、少し余裕があった?
Kento
はい。帰国してすぐは、そうなりましたね。その後、3年ぐらいでまた部門異動して苦労するんですけど。笑 すごくよく仕事が変わるんですよ。
Emi
笑 定期的に新しいチャレンジが来る。
日本の会社員は中国人と英語で話す機会が多い。それまで学校や留学で学んできた「ネイティブに対する英語」と、中国人と「共通語として話す英語」に違いはある?
Kento
英語はめちゃくちゃ上手ではありますけど、向こうもノンネイティブなので、ノンネイティブ同士。表現が平易で、すごく通じ合いやすいなという印象。だから、やりやすかったです。
Emi
その後、イギリスに赴任。このチャレンジは?
Kento
笑 まあ、前の仕事と共通性が出てきてるので、昔より難しさはないですけれど、ヨーロッパっていう地域が初めてなので、「ヨーロッパの中で相当、多様性があるな」と感じています。商習慣はだいたい一緒だけど、国ごとの人柄、人との関わり方、交渉の仕方など、いろいろと違うので、そこが大変だなって。

言語面では、まあまあみんな訛ってる。イギリスのクイーンズ・イングリッシュ*なんて、ほとんど誰もしゃべってない。笑
みんなそれぞれの訛りでしゃべってくる。たとえばフランス訛りは顕著。スペイン訛りもイタリア訛りも。最初は慣れるまで苦労しましたね。
*Queen’s English: イギリス英語の伝統的な標準発音。Received Pronunciation(容認発音)、King’s English とも。
Emi
今いらっしゃるのはマンチェスターという大都市。近隣国からも影響を受けた、いろんな英語が飛び交っている?
Kento
すごいですよ。あと、マンチェスター出身の同僚も相当、訛ってるんですよ。マンチェスターの訛りは、ぜひ、えみさんにも聴いてみていただきたいです。
Emi
興味あります。マンチェスター英語。
Kento
すごいですよ。たとえば「u」の音。発音記号の /ʌ/ は、口をすぼめる系の発音の仕方なんです。だから、「予算」は(「バジェット」ではなく)”budget”。
(ロックバンドの)オアシスがこの間ライブをやった場所は(「ヒートン・パーク」ではなく)”Heaton Park” みたいな。笑 そういう訛りの人もいますが、人によっても違うし、マンチェスターの中でも若干違うような印象です。
あとは、/t/ をあんまり発音しない。ちょっとコックニー*みたいですけど、”bottle of water”。僕もまだ再現できないので、帰国するまでに真似できるようになりたいです。
*Cockney: ロンドンの労働者階級で話される英語の一種。
Emi
おもしろーい。
やはり賢人さんの基準は耳。「フランス訛りだな」「イタリア訛りだな」など、タモリさん的な興味や才能がここでも疼いているような感じ?
Kento
はい。真似しちゃいます。笑 本人の前ではやらないですけど、勝手に一人で。
Emi
ものまね、大事ですね。
Kento
はい。言語学習には、本当にすごく大事だと思います。
Emi
「いろいろな場面で、いろいろな英語を使いつつ、いろいろなチャレンジのハードルを一つずつ超えて、気づいたら脚力が増していた」というお話を伺いました。いまの賢人さんから、たとえば日本で「今後、英語で仕事をしていこう」と思って学んでいる学生さんや社会人の方たちに、何か一言いただけるとしたらどんな言葉に?
Kento
「必ずしも教科書で勉強することが、すべてではない」と思うんですよね。それと、言葉なので、「五感を使う」ということが近道なんじゃないかなと思います。いろんなメディアに触れるとか、英語を使える場に自分の身を置いてみるとか。自分のように音楽を通じて、歌ってみて、というのもいいと思います。
言葉は、最終的にはコミュニケーション・ツールで、心が通じ合うもの。だから五感を使って学んでみるといいんじゃないでしょうか。
Emi
本日はありがとうございました。
Kento
ありがとうございました。



